「メディアウオッチ100」1316号(2020年5月20日 水曜日)
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再び、憲法を観察する
前回取り上げた国際人権規約についての外務省の説明では、
social origin → (和訳)社会的出身 → 社会的地位 → (憲法)社会的身分
としていた。社会的が付くだけで、出身・地位・身分というそれぞれの概念とは関係なく、ほとんど連想ゲームのように結びつけていることがわかるだろう。融通無碍とも言えるし、安易で無責任でもある。social originを私のように「どの社会の出身(であっても…差別されない)」というふうに理解すると、比較されているのは個別の社会同士であって(~社会と~社会のように)、ある社会の中の個人の社会的地位から、さらに社会的身分(社会の中の集団として把握される人々)までを同列に論じるのは飛躍し過ぎである。それほど憲法の社会的身分の理解は混乱しているし、イメージするのが難しい。再び、憲法のことは憲法に訊け、である。
(日本国憲法第14条第1項)
「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
憲法に言う社会的身分とはいったい何だろうか。
この条文に2か所で社会的が出てくる。社会的身分と社会的関係である。そして社会的は政治的・経済的とは区別される関係とされる。社会的身分の考察はここからスタートしたい。
政治的は文字どおりの政治に、国・地方自治体などの行政も含めた公権力に関わる部分、公的・法的・制度的なものを指していると考える。経済的は公的とは異なる私的な部分で、資本主義社会の基礎を成す企業などの経済活動を指す。あわせて雇用関係や、財産・収入の多寡など、文字通り“経済的”側面も入ってくるだろう。
残りすべてが社会的ということになる。社会的な危機というような場合は、政治や経済など同時代の全般を含む可能性もあるが、ここで問題にしている社会は政治とも経済とも異なるのだから、人と人との関係が織りなす私的空間である。政治学や社会学ではより適切な理論的説明ができるに違いないが、私の知識の及ぶところではないし、そこまでは必要なかろう。国家に対する市民社会、身近なイメージで言えば、よく世間とか世の中と言い習わしているものを想定してみた。今はやりのsocial distance(社会的距離)の社会がまさにそうだ。ただし、「人と人との距離」という意味を忘れなければ。
人が生活し、すれ違ったり、出会って付き合いが始まったり、対立したり、協力したり、だましたりだまされたり、さまざまな関係を取り結ぶ場である。そのままでは野放図になるから、その調整のために明文化された法以外にも、文化、道徳、慣習などがあって見えない形でも強制が働く。
憲法は「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」を列挙して、公的にも(つまり、政治的)、企業の経済活動でも(経済的)、私的な人と人の出会いの場でも(社会的)、差別されない(差別されることがあってはならない)と宣言したことになる。
憲法学の定説を疑う
この政治的・経済的・社会的についての、芦部信喜『憲法 第七版』の説明は私の述べたこととは全く重ならないので、むしろそのことに驚いてしまった。
「政治的関係…経済的関係…および社会的関係(たとえば居住の権利や教育を受ける権利の面)のいずれの分野においても、国民は差別されない。」(140頁)
私は法学のイロハもわきまえない、と一笑に付されそうだが、気を取り直して先に進もう。
従来から法学における社会的身分の説明を参照しないではなかった。そしてその説明が私の考え方と違うとは思っていたが、これまで特にそれを突き詰める気もなかったのである。ここでは少しこだわってみることにしよう。
第9回でも引いたが、『法律用語辞典』第4版(有斐閣)の憲法第14条「社会的身分」の説明はこうだった。
・ 広義に人が社会において継続的に占めている地位又は身分を指す
・ 狭義に生来の身分を指す
キーワードは「継続的に占めている地位」と「生来」である。
次に第10回でも取り上げた、芦部信喜『憲法 第七版』と長谷部恭男『憲法 第7版』。
芦部氏は狭義・中間・広義の三つに整理する。
狭義では「生来の身分」、中間では「一時的ではなく占めている地位」、広義では「一時的ではなしに占める地位」という言葉を用いて説明する。
長谷部氏は狭義と広義。狭義は「出生によって決定されるなど…固定した地位」、広義は「継続的に占める地位」などの言葉を用いる。
ここでの関心はキーワードなので、芦部氏、長谷部氏の説を簡略化していることは断っておく。
以上でわかるように、細かいニュアンスを別にして、「生来」・「出生で決定/固定」と考えれば狭義となり、「継続的」地位・「一時的ではない」地位と考えると広義(中間説も)となる。狭義と広義があることがすでに、社会的身分の理解の混乱を示してもいる。それで『法律用語辞典』は「いずれの説でも大差ない」と、私に言わせるとサジを投げたのである。(続く)
"皇籍離脱・皇籍復帰と社会的身分(23) ◆かるちゃーひろば"へのコメントを書く