皇籍離脱・皇籍復帰と社会的身分(20) ◆かるちゃーひろば

     「メディアウオッチ100」1313号(2020年5月13日 水曜日)
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地位と身分の使い分け
 日本国憲法第13条で「個人」、第14条第3項で「一代限り」というキーワードを得た。

 第14条第1項「社会的身分」の解釈は、この二つのキーワードを前提に、合わせて第2項・第3項の精神をくむべきではないか。これも貴族制とは異なるが、やはり身分制に関わる問題として。

 憲法には地位という語が3か所に出てくる(計6個)。

(1)われらは(―日本国民は)…名誉ある地位を占めたい(前文)
(2)天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。(第1条)
(3)…国務大臣、衆議院議員及び裁判官並びにその他の公務員…その地位(他に3個)…を失ふ(第103条)

 (1)はこの際、考察の対象外。(3)は公務員の個別の役職を地位と呼んでいる。
 (2)は文章としてごく素朴に考えると「この(―天皇の)地位は…総意に基く」と読むべきと考える(第14回はそのつもりで書いた)。

 皇室典範には地位という語はなく、身分が10個ある。いずれも「皇族の身分」という熟語で、内9個は「皇族の身分を離れる/離れない」という文である。残り1個は第26条「天皇及び皇族の身分に関する事項は、これを皇統譜に登録する」。

 ついでに言えば、法律の修飾・被修飾の関係は紛らわしい。たとえば皇室典範第12条に「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。」とある。ここで引いた条文はそれぞれ「〈天皇及び皇族〉の身分」、「〈天皇及び皇族〉以外の者」という意味だ。

 日本国憲法と皇室典範を見た範囲での印象を言えば、皇族は身分として集団的に把握されていて、だから「失う」ではなく「離れる」と表現しているのだと思う。ある一人の皇族は、「皇族」という集団の一員である時だけ皇族であり、その集団から離れると皇族ではなくなるという理屈が働く。

 その皇族の中で天皇が地位に当たるのではなかろうか。日本国憲法の「皇位」という語は1個で、皇室典範では10個、その内の4個は皇位継承、2個が「皇位の継承」、2個が「(皇位を)伝える」。天皇の地位(天皇という地位)だから皇位、と考えるとすっきりする。地位も皇位も卑近な言い方をすれば、ある個人が就いている役職である。役職を退いても身分は残る。

天皇・上皇は皇族ではない、らしい
 要するに日本国憲法と皇室典範が、身分(離れる/離れない)と地位(失う)・皇位(継承する/伝える)を使い分けている、ということを確認できた。皇位継承はまさしく三種の神器の継承によって可視化されている。

 役職を退いても身分は残るとすれば、上皇は皇族の一員でよいということになる。皇太子(皇族)→天皇→上皇(皇族)という図式である。だが以下に述べる通り、現行法で上皇は皇族に含まない。

 園部逸夫『皇室法入門』139頁以下で「皇族の範囲・区分」を取り上げる。要点をまとめると、

(1)皇族は皇后・太皇太后(先々代の亡くなった天皇の后)・皇太后(先代の亡くなった天皇の后)・親王・親王妃・内親王・王・王妃及び女王が該当する(皇室典範第5条)。このように天皇は皇族に含まれない。また譲位を前提にしていない。
(2)上皇后も皇族である(皇室典範特例法第4条)。皇室典範に定めがないので、特例法で皇太后の例にならうことにしたもの。
(3)皇族は内廷皇族・内廷外皇族(宮家皇族)に分かれる。内廷皇族は皇后・太皇太后・皇太后・皇太子・皇太子妃・皇太孫・皇太孫妃(皇室経済法第4条)。皇太子・皇太孫は(1)の親王に該当する。したがって確かに(1)皇族の一部が(3)内廷皇族である。
(4)上皇后も内廷にあるその他の皇族として、内廷皇族である(皇室典範特例法附則第5条)。皇太后の例にならうから当然内廷皇族になる。

 上皇は皇族ではない。だから内廷皇族にも上がってこない。この点について、園部氏は、

「天皇と上皇は皇族とは異なる別の身分・地位とされている」
「天皇及び上皇が皇族の一員であるかのように誤解されることもある」

と述べている(131頁)。

 したがってここまで私が書いた文の中で、「天皇・皇族」と書いた部分はすべて「天皇・上皇・皇族」と読み替えねばならないことになる。憲法と皇室典範の範囲では「天皇・皇族」でよいのだが、皇室典範特例法が入って来て「天皇・上皇・皇族」となった。

 皇室典範は天皇の崩御による皇位継承を前提にしているので、上皇に相当する地位は皇室典範には天皇しかない。特例法では上皇・上皇后について、それぞれ皇室典範に記載された天皇・皇太后の例による(例にならう)という表現しかできないが、特例法ではなく皇室典範の改正を行った場合は、上皇と上皇后の地位を直接に定め、適切に位置づけることもできたはずだ。先の天皇(上皇)と先の皇后(上皇后)を現在の天皇と先の皇后(皇太后…先の天皇は死去という前提)にたとえるのだから不自然ではなかろうか。

 皇室典範は日本国憲法の部品で、その部品にさらに特例法という部品が付け加えられた形になって、せっかくの精密な美しさ(体系性)が損なわれた。基本的人権を制約された皇族、その中でさらに特別な地位にある天皇。それならば特別に扱われる人を増やさない方向で、法改正を行うのが筋ではなかったかと思われる。

 私自身の個人的な思いで言えば、地位(天皇)と身分(皇族)にわけることで、天皇・上皇も広く皇族に含まれてよいと思うが、日本国憲法と皇室典範、同特例法はそうしなかった(あるいはできなかった)。私のように考えることが可能ならば、天皇を次代に譲った上皇は一皇族に戻ることができる。天皇を象徴、上皇を前象徴と呼ぶのは(『皇室法入門』71頁)、たとえ法律的に正しいとしても違和感がある。(続く)

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