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zoom RSS 『昭和天皇実録』関連本−その裏の裏 A

<<   作成日時 : 2015/09/16 21:17   >>

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「メディアウオッチ100」●608号【かるちゃーひろば】 2015年5月15日

※「メディアウオッチ100」はメール配信の有料電子雑誌≠ナす。
このブログには私が投稿して、掲載された記事を収録しますが、体裁(表題・見出し・本文)は変更する場合があります。


 インターネットを調べていると、YouTubeに、昨年9月9日午前、テレビ番組での勝谷誠彦氏の電話インタビューの録画があった。歯切れよく『実録』報道の内幕を語っている。勝谷氏によると、1万2000nのデータを得た宮内記者会は、時間をかけて読み込むことを前提に「談合なさって」、「9月下旬に、この日に」(つまり21日以降のある日に)一斉に書く手はずだったが、10日発売の月刊『文藝春秋』が「すっぱ抜く」ことがわかり、発売日より「1日前倒しにして」9日に載せることになったのだという。「前倒し」というなら、予定日(データ入手の1ヶ月後とすると22日)と比べて12日以上と言うべきだろう。

 私は報道解禁は宮内庁での閲覧開始日(意図的かどうか、重陽の節句)に合わせたと素直に思っていたので、ほんとうに驚いた。すでにふれたように『文藝春秋』10月号は9月10日発売なので客観的な事実として矛盾しない。勝谷氏は“特ダネを台無しにされた”『文藝春秋』編集者から情報を得たのだろうか。

 勝谷氏によると、文藝春秋社は宮内庁・皇室に独自のルートを持っていたか、あるいは「頭にきた宮内庁の方(一部聞き取れない)が文春にリークしたのかもしれない」という。それが正しければ宮内記者会から洩れたのではないことになる。1万2000nの漏洩を「リーク」で済ませることができるかどうかは、素人目にも気になる。電話でささやいたというようなものではない。電子媒体が違法に複製されていたとしたら、あるいはデータの入った備品の一つが保管場所から持ち出されていたら、インターネット上で情報がやり取りされていたら、もしくはひそかに売買されていたら、はたして何を意味するか。

 勝谷氏は『実録』には「世に出てる話しか、いちおう載ってない、ほとんど」、「今後の研究のためのカタログというか、目録みたいなものだと思えばいい」、(研究者にとっては)「そういう膨大な空白を逆に提示したという意味で、非常に意味がある」と言う。これらは私がYouTubeから書き起こしたものなので限界があることは断っておくが、これらのコメントは慧眼で、同意できるものだ。

 何が載っているかを知ることで、何がわからないか、何が隠されているか、皇室にとって何がタブーなのかもわかるのだ。また、編年の日録という体裁をとっていること、記事ごとに依拠資料が明示されることを「目録」と言ったのだろうが、まさにそれ以上でも、それ以下でもない。データブックであり、そこに利用可能なデータを見つけたとしても、研究者にとって、なお自分で確認する作業は省略できない。

 保阪氏は
<もとより、「官(国)」が描く天皇像が「民」と同じということはありえない。昭和天皇の姿を「国家」といった枠組みで捉える以上、そこに憶測や推量を持ち込むわけにはいかないからだ。>(『「昭和天皇実録」の謎を解く』298n)
と言う。「民」は「アカデミズムやジャーナリズム」のこと。「民」には憶測や推量があるが、「官」の手による『実録』にはそれが「ない」と、それこそアプリオリに前提されていないか。保阪正康『昭和天皇実録 その表と裏@』(毎日新聞社)の帯には「昭和史の新たなスタンダード」とあった。手放しの賞賛は思考停止に近い。

 半藤・保阪・御厨・磯田『「昭和天皇実録」の謎を解く』(文春新書)の内容に関わって一点だけ指摘しておこう。『実録』昭和11年2月13日条に「永田鉄山刺殺事件の軍法会議につき、行政・司法両裁判の混合ではないのかと御下問になる。」と書かれていることを引用し、保阪氏がコメントする。“指摘”とは「行政・司法両裁判の混合ではないのか」の部分だ。

<軍内の裁判なのに、一般の裁判のように新聞が大騒ぎして、皇道派の熱を煽るような形になることを懸念しているのです。これも重要な指摘です。>(111n)

 「軍内の裁判」「一般の裁判」という対比自体、意味不明というしかない。天皇の言葉として引用部分で対比されているのは行政裁判と司法裁判である。「刺殺」という刑事事件はもちろん司法裁判の性格を持つ。行政裁判は今はないが、当時はあって、行政の行為が適確かどうかが争われた。つまり行政が被告席に座ったのだ。私はかつて『行政裁判所判決録』を読み続けたことがあるが、被告が大臣や知事であることも珍しくない。

 天皇は、軍法会議は行政裁判と司法裁判の混合だ、と言ったのだから、被告は加害者である相沢三郎中佐だけでなく(司法裁判)、陸軍の責任者である陸軍大臣でもある(行政裁判)、と述べたのだと解される。私に言わせると保阪氏の誤読という印象だが、いまだ『実録』の該当箇所を読めないので断言することは慎む。

 この言葉は教育総監渡辺錠太郎が拝謁し、奏上を終えた後に、渡辺に下問した際のものである。天皇は、陸軍大臣と同列の陸軍三長官の一人・教育総監も被告席に座っているのと同じだ、と真綿にくるんで皮肉を述べたことにならないか。新聞の大騒ぎを天皇が懸念しているとは、どこからも読みとれない。懸念すべきは下剋上に近い、一部軍人の跋扈の方であり、むしろ陸軍上層の責任を言外に問うている。その懸念は当たった。この13日後に2・26事件が起き、渡辺は殺害された。

 『謎を解く』によると、『実録』の昭和16年12月8日の条、開戦の詔書案について述べた下りに、
<天皇の聖旨により、詔書案には「豈(あに)朕カ(ちんが)志(こころざし)ナラムヤ(ならんや)」の文言が挿入される。>

と書かれているそうだ(192n)。ここは気になったのだが、「聖旨」は「天皇の考え」以外ではありえない。したがって「天皇の」を冠する必要はない。引用を誤っていないとすれば、『実録』の推敲が足りなかったのだ。類例があるかどうか、誰か、1万2000nの中で「聖旨」を検索してくれないだろうか。多くの聖旨の中で「昭和天皇の聖旨」を類別する使い方ならばありうる。それはこの文脈とは異なる。

 最後に『謎を解く』で、「総司官」(207n)は総司令官、『独自録』(137n)は独白録の間違い。『昭和天皇独白録』は文藝春秋社の出版物なのだから、これは自社出版物の名を誤るほどあわてていたという証左か。


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